「20代は〇〇して、○歳で結婚して、○歳にはマイホームを買う」。このような人生設計をする。
そうでなくても、漠然と「〇歳はこうなっているだろう」と予測する。
そういった「残された時間をどのように使うか」を考える際に、役立つであろう社会情動的選択性理論について解説。
ぜひ、最後までお読みください。
社会情動的選択性理論とは?
「将来に残された時間が少ない」と認識したとき、自分の持つ資源をより情動的な体験に振り分けること。
この用語は、スタンフォードの心理学者Laura L. Carstensenによって提唱されました。
情動的な体験とは「喜び」「悲しい」「怒り」といった一時的な激しい感情です。
基本的な考え方は、時間に対する評価(長い短い)が、社会的目標の優先順位と実行に重要な役割を果たすというもの。
ここでいう社会的目標は、大きく2つのカテゴリーに区別されます。
知識の取得、将来への準備に関連するもの
感情の調節、情動の満足に関連するもの
高齢になるにつれて上から下へと、より自分の持つ関心や労力を振り向けていきます。
【社会情動的選択性理論】前提
前提は3つ。少し理論的なので、飛ばしていただいても問題ありません。
第一に、人と人の交流が生存の中核で、社会に関心を持つこと、そして社会に愛着をもつことは何千年にもわたって進化してきたこと。
第二に、人間は本質的に主体的(自分の責任で行動する)であり、予測される目標の実現に導かれて行動を起こすこと。
第三に、目標の選択は、その目標が達成されることを前提にしている。(時間がかかる目標を高齢では選択しない)
社会情動選択性理論は、どの目標が自分の目標に必須であるかよりも、社会的目標がどのように行動を指示し、機能するかということに関心があります。
人生で起こる特定の状況(受験、就職、結婚など)に効果的に対応するため、長期と短期の目標のバランスをとることを支援します。
【社会情動的選択性理論】詳細
論文には、若者と高齢者の2つのパターンが例として挙げられています。(論文は最後に)
知識の取得、将来への準備に関連するものが優先される場合
大学1年生になった学生は、幅広い交友関係に魅力を感じ、新しい友人を作るために多くの時間とエネルギーを費やします。
また新婚の若いカップルは、お互いの関係における問題を解決するために多くの時間を費やします。
なぜなら、解決することで将来の衝突を避けることができるからです。
このような未来志向の目標は、「未来が広大である」と認識されたときに、適応的に優先されます。
そして、知識の取得に関する目標が感情的報酬(喜びなど)よりも優先されます。
感情の調節、情動の満足に関連するものが優先される場合
感情のコントロールが第一の目標である場合、社会的パートナーの選択に非常に慎重になります。そして自分にとって常に親しい社会的パートナーを好む。
さらに、時間が限られている高齢者などは、人間関係において感情の質を高くするために、慎重に行動していきます。
高齢のカップルは、新しい問題解決を求めるよりも、自分たちの関係をありのままに受け入れ、良いことは評価し、困ったことは無視することにしていることが多いです。
【社会情動的選択性理論】原因
生物学者のジョン・メディナは以下のように書いています。
人生について考えるとき、私たちは必然的に体内時計の存在を想定する。
生まれた時にゼロになった体内時計は、私たちが地球上で生きている間、絶え間なく、そして本質的に時を刻み続ける。
そのため、その境界を示すために「寿命」という言葉を作った。
人は人生を歩むにつれ、「時間切れ」を意識するようになります。
そして、徐々に減少する将来の利益(知識を獲得する)のために時間を浪費するのではなく、「間違いと思いたくない」選択を今まで以上に重要視します。
不快な活動や単に意味のない活動はしない。また、新しい情報に対する興味も、その先にある残された時間がないので、低下します。
ヒトは、「人生の終わり」を強く意識すると、未来や過去よりも現在に焦点を当てます。
「今、ここ」で経験できて、かつ貴重なものである「感情」が満たされる目標を追求していく。
また「自分の人生は無意味ではなかった」と、人生の実存的な意味を求めるために、感情を中心に据えるようになります。
【社会情動的選択性理論】まとめ
将来の時間が残されていると思う人は、社会的な目標を「知識の取得、将来への準備に関連するもの」を重視する。
将来の時間が残されていないと思う人は、社会的な目標を「感情の調節、情動の満足に関連するもの」を重視する。
言われてみれば、当たり前のことかもしれません。残された時間が少ないなら、今を重視するしかありません。
ただ、社会選択的情動性理論は、何も死が近づいた高齢者だけには限りません。
余命わずかな人や死の淵を体験した人にも当てはまります。人生のイベント(子どもの結婚式や友人の死)で定期的に鋭く呼び起こされるものでもある。
70代以上を対象とした本に、より「今の状況に感謝する」「今あるものに目を向ける」と書かれている理由の一端は、社会選択的情動性理論にあるかもしれません。
そういったマインドフルネスや宗教観の強化は、「残された時間」に関する認識の変化に起因するのではないでしょうか。
では、また。