人々の行動について、小さなきっかけを作る「ナッジ」という概念。
日常的な場面から社会的課題の解決まで、応用範囲が広いナッジを深掘りしていきます。
- ナッジについて
- ナッジの設計プロセス
- ナッジを設計する上でのポイント
この記事では、上記の3つに触れています。ぜひ、最後までお読みください。
ナッジとは?
英語において「ひじで小突く」「そっと押して動かす」の意味。
行動科学の知見に基づく工夫や仕掛けで、人がより望ましい行動をとれるよう、小さなきっかけを促すアプローチのこと。
ナッジ理論は2008年に、米国の経済学者のリチャード・セイラー教授と法学者のキャス・サンスティーン教授によって提唱されました。
2017年、リチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことがきっかけで大きな注目を集める。
多額の報酬や罰則、強制といった直接的な手段ではなく、意思決定の際の環境をデザインし、自発的な行動選択を促すのが特徴。
その背景には人は常に合理的な判断に基づいて行動するわけではないという行動経済学の考えがあります。
「百聞は一見に如かず」ということで以下の動画を見れば、いわんとしてることがわかる。
- 便器のハエの絵を的にして、飛沫を減らす
- レジ前の足跡で整列を促す
- 照明のスイッチにシールを貼り、消灯を促す
その他に上記のナッジがあります。
ナッジのプロセスフロー
ナッジを構築する手順として、2019年にOECD(経済協力開発機構)が生み出した「BASIC」のステップがあります。
- Behaviour 行動観察
- Analysis 分析
- Strategy 戦略立案
- Intervention ナッジによる介入
- Change 変化の計測、見直し
上記の5つ。業務改善によく使われる「PDCAサイクル」のナッジ版といえます。
ナッジのチェックリスト
チェックリストは以下の3つ。
- NUDGES
- EAST
- MINDSPACE
順番に見ていきます。
NUDGES
ナッジ理論の提唱者、リチャード・セイラー教授とキャス・サンスティーン教授によって考案されました。6つの項目から成り立ちます。
iNcentive(インセンティブ)
インセンティブとは、メリットを与えること。
人に行動を起こさせるには、何かしらメリットが必要と考えます。ただし金銭的なものではなく、また選択の自由の余地を残します。
ここでは「これはやっておけば得だな」「これをしないと後々損しそうだな」と思わせることを狙います。
Understand mapping(マッピング理解)
マッピング理解とは、選択肢と結果を紐づけること。
自分の行動が「結果的にどういうものになるか」がわからなければ、人は二の足を踏みます。
「こんな良い結果があります」と相手に伝え、理解してもらうことが必要です。
Defaults(デフォルト)
行動を初期設定にすること。
人は自分が与えられた環境、もしくは保持している環境から離れたくないもの。
また環境を変えるのも面倒です。無料トライアルやアンケートでのチェック済み項目が主な例です。
Give feedback(フィードバックを与える)
フィードバックとは、相手の行動に対して、軌道修正を促すこと。
次回の行動を誘導するために、相手に学習させます。
Expect error(エラーを予期する)
ナッジを設計しても、相手は必ずしも望んだ行動を選択するとは限りません。
エラーに繋がれば、設計者も受容者も損をします。そのため、回避行動をあらかじめ盛り込みます。
Structure complex choices(複雑な選択を体系化)
選択を体系化することで、相手の選択にかかる負担を軽減します。(簡略化)
メニューが多すぎたり、選択のために考えることが多すぎると、行動へのハードルが上がります。
そのため相手には、何も難しく考えさせず、より簡単で良い選択を設計することがカギ。
例としては、「店長のおすすめ」が当てはまります。
結果的に「自分でメニューを選ぶ」という複雑な選択を簡略化していることに気づくでしょう。
EAST
イギリス政府のナッジユニット(BIT)がナッジを活用する中で、効果的だった4つをまとめたもの。
Easy(簡単・簡潔)
- メッセージをシンプルにする
- かかる面倒や手間をできるだけ少なくする
- 初期設定を利用者にとって好ましいものにする
例えば上記。
とにかく行動の難易度(ハードル)を下げ、「手間だな」「面倒だな」と思わせないことが肝心。
アンケートで気軽に回答できるよう、回答欄を減らしたり、選択式にすると、回答率が上がっていきます。
また、初期の設定(デフォルト)を活用するのも手。
初期設定を変えたり、アンケートのチェックを外したりするのは面倒なので、使い続けてもらう確率が上がります。
Attractive(魅力的・印象的)
- 画像や色で注意を引く
- お金以外の報酬を用意する
- 損失回避効果を狙う
例えば上記。
損失回避効果とは、人は得る喜びより失う痛みの方が大きいという心理傾向を指します。
お金以外の報酬は、例えば、表彰やポイント。特にポイントは失効が伴うので、無意識に「期限内に使わないと」と考えてしまいます。
Social(社会的)
- 他の人もしているという社会規範を示す
- 仲間や友人を巻き込む
- 行動を宣言させる
事例として「他の人は税金を納めています」という通知を税金滞納者に送る。
そうすることで、「支払いが遅れています」と普通に通知するより、効果が高いということが挙げられます。
その他に自分が達成したい目標を立て、同じ目標を掲げる仲間を集め、お互い宣言する。
習慣化のテクニックとしてよく使われるものです。
Timely(タイムリー)
- 受け入れやすい時期を活用する
- 適切なタイミングで情報を提供する
- 事前に計画させる
適切なタイミングとは、相手が情報やサービスを欲しがっているタイミング。
例えば、社会人になったときや結婚など。ライフステージが変わるタイミングで、生命保険加入を促すことが具体例として挙げられます。
MINDSPACE
イギリス政府のナッジユニット(BIT)が設計したナッジのチェックリスト。
人々の行動特性を9つの項目で分類しました。
- Messenger 情報は誰が伝えたかに影響される
- Incentives 利益よりも損失回避に反応する
- Norms 他人の行動に影響を受ける
- Defaults 初期設定を受け入れやすい
- Salience 目立つものや関係しそうなものに注目する
- Priming 潜在意識で次の行動が決まる
- Affect 行動は感情に左右される
- Commitments 公の場の宣言が整合的な行動を産む
- Ego 自分の満足度を高める
【ナッジ】まとめ
ナッジ理論は街中のあらゆる場面で見られる。階段に消費カロリーが提示されているのも1つ。
また、ソーシャルディスタンスを確保するために足跡のマークを設置することも1つ。
日常生活では気にしていなかった仕掛けも、もしかしたらナッジの設計が組み込まれているかもしれません。
ナッジの仕掛けは、受容者の利益を考えて設計されるので、無意識に動かされていても、腹は立ちづらい。
小さいコストで大きな利益を生み出せるナッジ理論には、大きな可能性が秘められているといえるでしょう。
では、また。