「やることリスト」が増え続けているのに、一向に余裕が生まれない。そういう状態が続いているなら、問題は「やること」の管理方法ではなく、「やらなくていいこと」がまだ残っている可能性があります。
この記事では、やらないことリストの考え方と、実際に作るための手順を紹介します。
やらないことリストとは何か
やらないことリストとは、自分の生活や仕事の中から「これはやらない」と意識的に決めたことを書き出したリストです。英語では「Not To Do List」と呼ばれることもあります。
「やることリスト(To Do List)」が「何をするか」を管理するツールとすれば、やらないことリストは「何をしないか」を決めるツールです。やることを増やして生産性を上げようとするのではなく、やらないことを減らすことで、本当に大切なことへの集中を取り戻す発想です。
なぜ「やらないこと」を決めるか
忙しい人ほど、気づかないうちに「やらなくていいこと」を抱えています。習慣で続けているもの、断り切れずに引き受けたもの、なんとなく続けているもの。これらは「やること」として積み上がり、時間と思考の余白を少しずつ奪っていきます。
心理学者のボームスターらが1998年に発表した研究では、自己制御の力は繰り返し使うほど消耗していく可能性があると報告されています(この理論については後に再現性を疑問視する研究も出ており、現在も議論が続いています)。
確実に言えることは、人が一日に処理できる判断や意思決定の量には精神的な限りがあるという点です。毎日の細かな判断が積み重なるほど、重要な場面での思考が浅くなりやすい。これは「決断疲れ」とも呼ばれる現象です。
やらないことを先に決めておくと、その都度「これをやるべきか」と判断する手間がなくなります。結果として、時間だけでなく思考の余白も生まれます。削ぎ落とすべきものを削ぎ落とした状態でなければ、本当に集中したい物事へのエネルギーは残りません。
やらないことリストの作り方
ステップ1|「なんとなく続けていること」を書き出す
まず、自分の一日や一週間を振り返り、「なんとなくやっている」「やめようと思いつつ続けている」「やっているが本当に必要か疑問に感じている」ことを書き出します。量は問いません。思いついたものをそのまま並べていく。
判断は後でいいので、まず出し切ることが大事です。例として出やすいものは以下のものになります。
- 気が向いたときのSNS閲覧
- 返信するか迷う連絡への反応
- 義務感で出席している集まり
- なんとなく更新しているサブスクリプション
- 頼まれると断れない仕事の引き受け
- 寝る前のスマホ操作
- 必要以上に細かく確認する作業
ステップ2|「余白を奪っているもの」を選ぶ
書き出したリストの中から、時間・思考・お金・エネルギーのいずれかを消費しているわりに、自分にとっての価値が低いものを選びます。
判断の基準はシンプルで、「これをやめたとして、本当に困るか」を問いかけてみることです。困る理由が思い浮かばなければ、やめる候補として扱えます。
完全にやめることが難しいものは、「頻度を減らす」「時間を決める」といった形で制限するだけでも効果があります。
ステップ3|「やらないこと」として書き留める
選んだものを「やらないこと」として明文化する。ポイントは具体的に書くことです。「SNSを減らす」より「朝起きてすぐにSNSを見ない」、「無駄な会議に出ない」より「議題のない定例会議への出席を断る」のように、いつ・何を・どう制限するかを明確にしておくと、実行しやすくなります。
やらないことの例
やらないことは、生活のどの場面でも見つかります。以下は参考として挙げる例です。
時間
- 不要な会議への出席
- 返信を急かされていないメールへの即レス
- 移動中のニュース閲覧
- 入眠前1時間のスマホ操作
思考
- 結論の出ない比較や検討の繰り返し
- 他人の評価を過度に気にする時間
- 完璧にならないと動き出せない習慣
人間関係
- 気乗りしない誘いへの無条件の参加
- 疲弊するとわかっている会話の継続
- 相手の機嫌を先読みして過剰に気を使う行動
お金
- セールの通知を受けるたびに見てしまう習慣
- 特に目的のないショッピングモールへの立ち寄り
- なんとなく更新し続けているサービスへの課金
モノ
- 迷って買ったが使っていないものの保管
- 「いつか使うかも」で残している道具
- 似たような用途のものの重複購入
続けるためのコツ
最初から完璧にしようとしない
やらないことリストは、一度作れば完成するものではありません。生活の変化に合わせて見直し、追加や削除を繰り返していきます。最初は2〜3項目から始め、続けられそうなものを少しずつ増やしていく方が定着しやすいといえるでしょう。
「できなかった」と責めない
リストに書いたことを守れない日があっても、自分を責める必要はない。やらないことリストの目的は完璧な禁止ではなく、意識を向けることにあります。「またやってしまった」と気づく回数が増えるだけで、行動は少しずつ変わっていきやすくなる。
定期的に見直す
月に一度、リストを見返し、「これは今も必要か」を確認する習慣をつけると、形骸化を防ぎやすいでしょう。生活の変化とともにやらなくていいことも変わるため、更新し続けることに意味があります。
やらないことを決めるのは、やりたいことのため
やらないことを決めるのは、何かを我慢するためではありません。余白をつくることで、自分が本当に大切にしたいことへの時間とエネルギーを取り戻すため。
「やること」を増やし続けても余裕が生まれないとしたら、引き算を試してみる価値があるのではないでしょうか。何かを削ぎ落とした先に、初めて見えてくるものがあります。
まとめ
やらないことリストは、「何をしないか」を先に決めることで、時間・思考・お金などの余白をつくるための道具です。作り方はシンプルで、書き出す・選ぶ・明文化するという3ステップで始められます。
完璧に守ることよりも、意識を持ち続けることが大切です。まず2〜3項目から試してみてください。
参照文献
Baumeister, R. F., Bratslavsky, E., Muraven, M., & Tice, D. M. (1998). Ego depletion: Is the active self a limited resource? *Journal of Personality and Social Psychology*, 74(5), 1252–1265. https://doi.org/10.1037/0022-3514.74.5.1252