引き出しの中を片付けて、使っていないモノを何点か処分したあと、なんとなく気持ちが軽くなったと感じたことがある人は多いでしょう。棚の上がすっきりしただけで、部屋全体が広く感じられることもあります。 一方で、捨てたあとに後悔したり、なくしてから思い出して寂しくなったりした経験を持つ人もいます。「捨てると楽になる」という感覚は、多くの人が語る一方で、必ず誰にでも同じように起こるとは限りません。 この記事では、捨てたあとに気持ちが軽くなると感じられる理由の候補を、視覚的な情報量、終わっていない感覚、管理や選択の負担、自分で動けた感覚という切り口で整理します。あわせて、捨てることが逆効果になりやすい場面や、注意が必要な持ち物についても扱います。 読み終えたあとには、捨てるかどうかを決める前に、自分の状況に当てはめて考えられる状態を目指します。
捨てると気持ちが軽くなると言われる理由の候補
「捨てると楽になる」という感覚には、単一の原因ではなく、いくつかの要因が重なっていると考えられています。代表的な候補を見ていきます。
目に入る情報量が減る
モノが多い空間では、視界に入る色や形の数も増えます。片付けて視覚的な情報量が減ると、意識せずに処理していた刺激が減り、部屋にいるときの負担が軽くなったように感じられることがあります。
終わっていない感覚が減る
修理していない家具や、使いかけのまま置かれたモノは、「まだ終わっていない」という感覚を生みやすいものです。処分したり片付けたりすることで、この未完了感が減り、気持ちの上でも区切りがついたように感じられることがあります。
管理や選択の負担が減る
持ち物が多いほど、手入れや置き場所の判断、探し物にかかる手間も増えます。数を減らすことで、日々の管理や選択にかかる負担そのものが軽くなる場合があります。
自分で動けた感覚
片付けや処分は、自分の意思で進められる行動です。小さくても「自分で決めて実行できた」という感覚が、気持ちの面でのすっきり感につながっていると考えられています。
部屋の様子と気分の関連を示した研究
部屋の状態と気分の関連については、心理学の分野で調べられたことがあります。米南カリフォルニア大学のサックスビーらは、共働き夫婦60人に自宅を案内してもらいながら話した内容を分析し、「散らかっている」「片付いていない」といった言葉を多く使う人ほど、コルチゾール(ストレスに関わるホルモン)の日内変化のパターンが、健康的とされる形から離れる傾向があったと報告しています(Saxbe & Repetti, 2010)。 この研究は、部屋についての話し方と体の反応の関連を調べたものであり、モノを捨てれば気分が良くなるという因果関係を直接示したものではありません。対象は共働きの夫婦60人に限られており、女性の方が男性より関連が強く見られたことも報告されています。誰にでも当てはまる結論として一般化することは避けたほうがよいでしょう。
捨てれば必ず楽になるわけではない
ここまでの内容は、捨てることが常に気持ちを軽くするという保証ではありません。勢いで手放したあとに、必要だったと気づいて後悔する場合もあります。 思い出のある品を処分したときに、喪失感が残ることもあります。短期間に大量のモノを処分しようとすると、判断が雑になり、あとから取り返しがつかない後悔につながりやすくなります。捨てる作業そのものが目的になってしまい、必要なモノまで手放してしまう場合も見られます。
家族の持ち物や思い出の品への注意
自分以外の家族の持ち物を、本人の同意なく処分することは避けたほうがよい行動です。同じ家に暮らしていても、モノに対する感じ方は人によって異なります。 思い出の品についても、すぐに結論を出す必要はありません。写真に残す、一時的に別の場所へ移すなど、完全に手放す前に段階を踏む方法もあります。
安全に試すには
いきなり大量に処分するのではなく、まず使用期限が切れたモノや、同じ用途のモノが重複している場所から始めると、判断の負担が少なく済みます。 処分する前に、「いつから使っていないか」「同じ役割のモノが他にあるか」など、自分なりの基準を先に決めておくと、勢いだけで判断することを防げます。手を止めて迷いが出たときは、その場で結論を出さず、時間を置いてから考え直すことも一つの方法です。
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優先度1:『ぼくたちに、もうモノは必要ない。増補版』
物を減らした後の心の変化を知り、無理のない手放し方を考える助けになります。
まとめ
物を捨てると気持ちが軽くなる感覚には、視覚的な情報量の変化、終わっていない感覚の減少、管理や選択の負担の軽減、自分で動けた感覚など、複数の理由が関わっていると考えられます。次に片付けをするときは、使用期限切れのモノや重複しているモノから、小さく試してみてください。
参考文献
Saxbe, D. E., & Repetti, R. L. (2010). No place like home: Home tours correlate with daily patterns of mood and cortisol. Personality and Social Psychology Bulletin, 36(1), 71–81. https://doi.org/10.1177/0146167209352864(共働き夫婦60人を対象にした相関研究であり、モノを捨てる行動そのものを扱った研究ではなく、部屋についての語り方とコルチゾール・気分の関連を調べたもの。因果関係を示すものではなく、対象も限定的である点に留意)